アイテム受託



 ここはナナリーとルーティが経営しているドープルーンの宿屋。
 その宿屋に、長く艶やかな漆黒の髪を持つ少女が入って行く。少女の傍らには、耳が大きく尻尾から羽の生えた小さな生物がぱたぱたと飛んでいる。
「こんにちは、ナナリー、ルーティ」
「こんにちは〜」
 少女と生物は、宿屋の経営者であるルーティとナナリーの姿を確認するとにこやかに挨拶をした。
「あ、ミルイアにモルモ。いらっしゃい」
 ルーティは仕事の手を休め、少女と生物を見ると笑顔で言った。
 ミルイアと呼ばれた少女は、テレジアのディセンダーでありアイリリーのアドリビトムである。そのミルイアの傍らをぱたぱたと飛んでいる生物はモルモ。ヤウンという異世界のディセンダーだ。
「よく来たね。何か飲んでくかい?」
 ミルイアがカウンター席に座ると、ナナリーが訪ねる。
「えーと、じゃあオレンジジュースを貰えるかしら?」
「オイラはミルクー!」
「はいよ、ちょっと待ってておくれ」
 ナナリーはそう応えると、カウンター奥で手際良くオレンジジュースとミルクを入れる。
「はい、どうぞ」
 そう言いながら注文された飲み物を差し出すと、ナナリーは不意に何かを思い出した様に「あ」と呟いた。
「そうそう。アンタ宛てに荷物が届いてたんだ」
 ナナリーはそう言ってカウンターの奥に引っ込むと、小包を持って戻って来た。
「ほら、これだよ」
「ありがとう」
 ミルイアは差し出された小包を受け取ると、早速中身を確認した。
「うわぁ、可愛い服ね。……装備してみようかしら♪」
 荷物の中身を確認したミルイアはそう感想を漏らした。


 宿屋を後にしたミルイアとモルモはぶらぶらと歩き、広場に足を運んだ。
 そこに漆黒の髪を持つ美少年――リオンがいた。
「あ、リオンだ。お〜い、リーオーンー!」
 モルモが呼ぶと、リオンは2人の存在に気が付き、少々鬱陶しそうに振り向いた。面倒な奴らに捕まったとでも思ったのだろう。
 が――
「!!」
 ミルイアとモルモの姿を視界に入れた瞬間、リオンの動きがぴたりと止まった。
「……マ…………?」
 リオンは何かに驚いたように眼を見開き、何事かを呟いた。
 その呟きは微かにミルイアとモルモの耳に届きはしたが、何と言ったのかまでは聞き取れなかった。
「……リオン?どうしたの?」
 リオンはその声ではっと我に返った。
 こちらを見ているミルイアとモルモを見、苦い顔をになった。
「……何でもない」
 リオンはそう言うとばつが悪そうに俯く。そこには少し悲しそうな表情が浮かんでいるようにも見えた。
 そして踵を返し、そのまま足早に広場から去って行った。
 ミルイアはモルモと顔を見合わせ、首を傾げた。


 リオンは暫く歩き、人気の少ない通りに出た所で足を止めた。
 ミルイアの艶やかな長い黒髪と現在の装備品が、リオンにある人物を思い出させていた。
 艶やかな長い漆黒の髪を持つ女性。
 リオンは顔を哀しげに歪めて空を見上げ、
「……マリアン……」
 蝕むモノから守る事が出来なかった愛しい女性の名を呟いた。


 一方、広場では。
「リオン、どうしたのかしら?」
 ミルイアは首を傾げる。
「もしかして、その服に見とれてたのかな?……だとしたら特殊な趣味だなぁ」
 ミルイアの服装は、先程ナナリーから受け取った小包に入っていた服だった。
「……まるで私自身には魅力がないみたいな言い方ねぇ、モルモ?」
「き、気のせいだよ!ちょっ、や、やめてよー!」
 黒いパフスリーブの半そでワンピースに、フリルの付いた白いエプロン、そして同じくフリルの付いた白いカチューシャ。
 少々スカート丈が短過ぎる気もするが、飽くまでも戦闘用の装備品なのでそこは動きやすさ重視に作られている。
「こうしてやるわっ」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!くすぐったいってばー!」

 それは――フレンチ・メイドという名の装備品だった。



END



…*……*……*……*…

レディアント連動サイトのプレゼントでフレンチ・メイドという装備がありまして、それを女主人公に装備させていたら思い付いた話です。
リオンがメイド服を見てマリアンの事を思い出したりしないかなぁ、と。
ミルイアはフェイスタイプ5の黒髪少女のイメージです。その娘が一番マリアンを彷彿とさせるので。
ちなみに、私はフェイスタイプ5の女主人公は作っていません。ミルイアはこの話専用の架空の人物です。
ミルイアって名前、「マリアン」の50音表記の1個下ってバレてるかな……(´・ω・`)どきどき
フレンチ・メイドの守備力は122と高く、必要レベルも13とまあまあお手頃です。
ただし、帽子、靴、手袋が装備できなくなるので注意が必要な装備です。

2007.9.1.


ちょいと修正してみた。

2009.2.18.